母の靴、私の靴/豊島ケイトウ
か。そして――ああ、私に母をとめる権利はないだろう、と、達観したのだ。
達観した私は、母の頭をなでてあげた。
「だめな母親でごめんね」母は涙声で謝った。しばらくして、私は、実はもっとこのひとを泣かせてやろうとしているのだ、ということに気づいた。だから、
「だめじゃないよ、ぜんぜん」やさしい言葉を口にすると、案の定、母は食卓に突っ伏して泣いた。いい気味、などとは思わなかったけれど、少し、私の気分は晴れた。
結局、母は家を出なかった。翌朝にはいつもどおりの「ジブン」を取り戻していた。
だから今回の家出は、なんていうか――ほとんどふいうちだった。私は身構えるのをすっかり忘れていた。
「
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