原風景10/日雇いくん◆hiyatQ6h0c
るのだろう。そんな疑問が浮かんだ。
どうしてだろう。どうして――
少し考えたが、わからなかった。
ただ、昨日のことを思い出すと、怒りがよみがえるのも確かだった。
迷いが生じているのかもしれない。
罠だ。
確証はなかったが、体感でわかる。
時として、迷いは罠になる。
罠だとわからずに迷いに乗った時、その先には後悔だけが残るものだ。
そういう時は理屈でねじ伏せるに限る。
これから行動する事によってどんな利益があるかを思い出し考え、経文を暗証するように並べた。そして、今は迷うな、怒りを忘れるな、とも念じた。
――今はとにかく、生きるために信じて、行動するしかないんだ、ないんだ、ないんだ――
しているうち、アナウンスが到着駅を告げた。降りると他の乗客はあまり降りてはこなかった。一息つき、ゆっくりと歩く。
島式ホームの、ぽっかりと開いた穴のような階段口を下に行ってから上り改札口を過ぎると図書館に向かった。
自然、ポケットのたばこに手が行く。
駅前すぐのロータリーを越えた時には、それはもう戻っていた。
[グループ]
戻る 編 削 Point(0)