「檻の中の同性愛」/桐ヶ谷忍
私を好きだと。
最初は、はぐらかして微笑んでいた。
好きになってくれてアリガトウ。
それだけ。
彼女は私に、何も求めなかった。だから私も彼女を好きとも、なんとも
思ってない事も、何も告げなかった。
けれど、二人きりになるとささやかれる「好き」。授業中に回されてくる
紙切れの、どうでもいいような文章のどこかに必ずある「好き」。日常の
延長線上で、しかし明らかに恣意的に触れられる。休日には他の友達に内緒で
二人きりで会いたいと誘われる。会わない日は、電話が鳴る。
私は、当時親からでさえ愛情を持たれていると思った事などなかった。
初めての、他人からの接触に戸惑った。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)