方言のちから 映画『悪人』を観た/A-29
 
原作は読まずに映画を観に行った。どうせ出来そこないの九州弁を聞かされた挙げ句、薄っぺらな人間把握を押しつけられるのが関の山と踏んでいたが、意外や意外。

人間把握の深い浅いはともかく、俳優陣による北部九州弁の習熟度の高さには感服! 特に主演女優、深津絵里の佐賀弁は賞賛に値する!

今まで、松本清張原作モノなどで九州弁がクソのような扱いを受けることに慣らされてきたせいで、良質な九州弁によるドラマ、映画の制作は絶望的と諦めていたが、やればできるジャン!という感じ。拍手したい。

原作者は自身の社会批判を登場人物のひとりに語らせているが、それ自体が標準語と方言とのパララックスに潜在することを自覚している。

深津演じる主人公にとって「愛」とは佐賀弁を以てしか表象しえない何ものかであること。原作者はそのことを作話の方法論として意識している。

この映画の成功を契機に今後、「方言モノ」ブームが到来するだろう。その場合、方言はたんなる風物や田舎臭であってはならない。「標準」や「中央」などといった概念への明瞭な「対抗」であるべきだ。
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