旅の始まり /服部 剛
いつも銅像の姿で座っていた
認知症の婆ちゃんは、ある日
死んでしまった爺ちゃんを探して
杖を放り出し、雨にずぶ濡れながら
駅までの一本道を、ずんずん歩いた。
最近、壁の前に立ち止まったまま
うつむいていた私も、ある日
(ほんとうの自分)を探して
時に小石につまづきながら
もっと先の駅を目指して、ずんずん歩いた。
ちょっとやそっとの悩みなんぞに沈んでは
世界にひとりの花である
私自身の、名が廃る。
今から約六十年前
えへん、と言って焼跡の街から旅を始めた
若き詩人の魂を、この胸に。
愛する爺ちゃんを探して
どしゃ降りの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)