花冷え/豊島ケイトウ
 
 もうふた月ほどたつだろうか。わたしは毎日、すこしずつ家財を捨てている。家財、といっても、どれもさまつな――そのほとんどは夫と共有して、それなりの思い出がつまっているのだろうが、もはやさまつとしかいいようのない――ものばかりだ。
 夫は、わたしの行動に気づいているのかいないのか、いまだになにもいってこない。新婚旅行中の写真やそのときに購入したささやかなお土産、両親からもらった夫婦茶碗、つきあいはじめのころいろいろと交換し合ったプレゼント、それらがなくなっても、彼の生活には支障がないらしい。わたしは腹がたって、ますます依怙地にものを捨てていく。夫はなにもいってこないままだ。どの程度この家がすっから
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