夕暮れの塔 /服部 剛
あの塔の頂に立って
私は何を、視るだろう。
遠方の高見から眺めれば
近過ぎると醜い人の世も
小さい蟻の人々も
昨日喧嘩した家族の憎い顔さえ
愛しく思え
見渡す街の霞かかった煙突から
夕闇へ、ひとすじの煙は立ち昇る。
あぁ時には日常を遠く離れた場所から
そっと現世(こちら)を視るような
誰も知らないあの塔へゆこう
そうして私は頂に独り立ち
この瞳を細めながら
あたりまえだった人の顔さえ
ぼんやり暮れる夕空へ浮かべよう
見渡す街の
あの朧(おぼろ)な煙突から
夕闇の雲間の窓へ
ひとすじの煙は立ち昇る
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