クルトルハイムにて /服部 剛
クルトルハイムという洋館の
玄関前に聖イグナチオの像が
跪いて祈る私の呼びかけに
応えようと身を乗り出していた
古い木目の壁の聖堂には
肌の黒い求道者が座り
祭壇の十字架にかけられた人を
丸い瞳で観ていた
( 神の声を聴くには? )
( 沈黙です・・・ )
その一言のみを聖堂に置いて
求道者は出ていった
右の窓を開いた彼方の空に
夏の終わりの蝉と
小鳥の囀りのコーラスが響き
左のドアを開いた
階段の下は
人の心の未知なる部屋へ続き
黒い肌の求道者の
足音が
みしり、と下りていった
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