はじまり/桐谷隼斗
 
世界は終わるのだ
と、高らかに宣言する少女の
耳元に 蝶の呼吸を
あてがう
溶ける息 ああ やわらかい
だれかがカーテンを開く
閉じきった窓の中には透明な壜と生殖器
暴力がにおう はてしない、と思ってしまった
だれか、
だれか、
言葉がもれる前に だれか、
壜の中が 精液であふれてしまう前に
刈り取られたばかりの 少女が
男に出荷された
おとといは三人 きのうはは二人 きょうはわたし
シーツをなでる 男は海の底で
言葉が生まれる前の言葉をささやいている
海に種を蒔く 生まれたのはわたしで
帰っていくのもわたし
皮膚が溶けて もどっていく
心臓で計っていた 時間が痺れ
粘液は粘液と密接な夜明け
壁にはりつく 影は卑猥だ

黒い目蓋の裏 なんで永遠に 夜なんだ

はじまりの電話が鳴って 少女は独りだった




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