でんしゃのなかにふる雨は声かもしれない恋かもしれない/石川敬大
 
{引用=



ふいに落ちてくるのは声
ねむりを破る声

とどまることなく走りつづける
でんしゃのなかを
でんしゃと同じ速度で疾走する男がいて
疾走する男のその努力をもし徒労というのなら
男の姿は徒労のかたちを借りているといえるのかもしれない

走りつづける各駅停車のでんしゃのなかに
甲虫の顔をした大人が
椅子に坐って
おりるべき駅がくるまでゆられてゆく
おりるべき駅がきたら消えてゆく

    *

でんしゃのなかで行き斃れる者
でんしゃのなかで行方不明になる者
でんしゃのなかで
身も世もなく
アイスクリームみたくとけてしまうものさえいて
(
[次のページ]
戻る   Point(18)