すこしむかしのこと/はちはちよん
 

ふたりでぎゅうと抱き合って寝ながら
あいしてるって何だろうね、と話したことをよく覚えている。
なんだか言葉にすると安っぽくなってしまって、あいしてるはお互い言わなかった。1度も。

先輩の車の後部座席に並んで乗っていた時のことも覚えている。余計な荷物がたくさん乗ったくろい車で、窓はどれも全開だった。夜で、海のそばを走った。ふたりの先輩は前で陽気に喋ったりうたったりしていて、わたしたちは後ろでくっついていた。
ぽろんぽろんというギターに合わせて、高い声の男の人がやさしく歌う曲が流れていた。

その歌をきく度に思い出す。涙すらでそうになる。
わたしはとても、とてもひとりのひとを好きだったんだ。
戻る   Point(1)