夜に歩けば/あまね
 
昨日をかばんに詰め終えた 
坂道 秋の木立 四種類の蝉の歌 
清掃工場の煙突と浄水場のタンク 
ダンスを始めた稲穂たち 
鎮守の丘と用水路 
高速道路の高架橋 
思い出の風景をぜんぶ閉じ込めて荷造りを終えた 
明日を目的地に 
踏みしめて進むための今日の道がずいぶん茫漠で 
足が竦んでしまう 
書きかけの手紙  読みかけの本  不実な恋  食べ損なった朝食 
ぬかるみは果てしない 
明日への旅路は困難だ 
減らしたくない荷物が重いのだ 
今日に居場所のない思い出たちを 
ここに置き捨てるのはあんまりだから 
でも
埋もれた左足を引き抜いて踏み出すころに
右足
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