いのち/桐谷隼斗
 
お母さん
殻を捨てて
どこに行ってしまったの

虫って短命だ
それなのに
幼いわたしは必死になって
いのちを透明な箱にぶら下げて
笑っていた
(昔 蝶のこと)
もし/わたしがちょうちょだったら
生け捕りにされた仲間を思い
報復します 世界を終わらせます
と、書いたような気がする/
でもさ
わたしの周りを飛び続けるちょうちょは
そんなことする気配もなく
ただ美しかった(はかなげだった)
たぶん自分が(すぐ)死ぬことを知っている
死んでいくちょうを見ていると
わたしも死んでしまいそうになるよ
たんぽぽが咲き誇っていた運動場

ああ/お墓だな/ちょうちょの/だって/春の/いいにおい/がする

昔 きれいだった母は
もう/いない/よ
ちょうちょに連れて行かれました
虫がいのちを燃やしながら歌う

わたしも少しずつ
《わたし》が破れていくのが分かる 
寝よう 明日は早い 
おやすみお母さん
翅が生えたら、行くね
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