飛躍/桐谷隼斗
 
二十歳はいつかの幻想だった。
思い出が時計の針を進める。
ラジオがよく響く夜があり、
蟻が部屋を這い回る朝がある。
そんな時は、がらがらの電車にずっと揺られていたい。
私が景色に語りかけるのではなく、
景色が私に語りかける瞬間/に
・たおやかに踊る少女
・活字のかぐわしい香りを嗅ぐ老人
が、いれば、
その物語は正しいのだ。

木漏れ日の中で夢を見たい。
死んだ母を幻視する。
「あなたは当たり前の朝についてどう思う?」
母が枯れ木の寂しさを湛えて言う。
「朝が来るたびに死んでいく子供たちの涙を思うよ」
「そう、あなたはもう大人なのね」
電車が一日の終りの駅に差し掛
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