さくらんぼ/月乃助
 

( ごきげんよう、ごきげんよう、)

さくらんぼをほおばり
空を見上げる子供たちは、
雲の切れ端に話しかけながら
虹ばかりを作るのに 一生懸命で
いつの間にか花の小人たちまでやってきて 共に遊んでいる

まどろみさえも許されぬ時
窓の外を眺めては
母となるための踏み絵に唾した昔を思い出しながら
大きな声をあげて 呼ぶ子供達の名

( こらぁ、水着はぬいじゃだめだからね )

あの子たちを生んだ義務からでも、
出会えた縁からでもなく、
私は、私の意志によってお前たちの母でいることを 願う
それが大事だと信じることでなく
大切だと知らされる 綿菓子のような 
雲のしたの風景
焼きあがったパンの香り 

もう二度とやってくることのない
今年の 夏 の 終わり





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