夜明け/エルメス
 
彼は寒いね、と言った。

数秒遅れて、彼女はそうだね、と返した。


彼は、二人が座っているベンチ付近の気温の低さを、彼女に確認したかったわけではない。


言葉にせずとも分かることを、敢えて言葉にする。

それができるのは、気の置けない相手がいるからこそ。


彼は、彼にとって彼女がそういう相手であることを表現したかった。

彼女は、軽口を叩くことなく、ただその言葉に応えた。


二人は、同じタイミングで、微笑む。


彼と彼女の会話には、内容はなかったが、意味があった。


「明るくなってきたね」

「そろそろ夜明けだよ、きっと」


冬の太陽は優しい。

目を細めながら、太陽は二人を照らし始めた。
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