満月/天野茂典
燃えてしまった本棚
夏の初めに
私は火事を出した
寝タバコの根が
羽毛布団におちたのだった
それは現場検証で
消防署員の説明で聞いた話なのだが
ぼくの布団の片隅は
真っ黒に焼きただれて
抜け落ちていた
窓は締め切ってあった
母もが外出していなかった
ぼくもバイクで出かけていたのだ
家は6時間もくすぶり続け
火は外へでることはなかった
家ごと燻製になったのだった
私の生活は荒れていた
3日間分の睡眠薬を
飲んだりしていた
未来はなかった
泥のような舟だった
燃えてしまった私の本棚
3つの部屋を占めていたのに
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