1型/瀬崎 虎彦
それを食べることはない。僕は糖尿病で甘いものを食べられないのだ。だけどそのことは言わずに、しばらく他愛のない話を続ける。そして僕は思う。彩は僕にクッキーを贈ることで満足し、僕はそれを受け取ったことをうれしく思っている。食べたか食べなかったかは問題ではないのだ。もしかすると、明日学校であったら感想を聞かれるかもしれない。そして僕は平然と嘘をつくかもしれない。そういう嘘は別に悪いものではないのだ。
日付が変わる頃に僕たちはおやすみを言いあう。そして僕が甘いものを食べないと彩が知る頃には、僕たちはもう少しお互いに近い存在になっているかもしれない。
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