夏のゆかた/月乃助
十分に知り尽くしたと安堵していた 朝
― 五人組集合
四十九番、ソノ竹ヤリデ鬼畜ヲ、コロセ
ヨイカ、国体ノタメニオマエノ命ナド、命ナド
天皇陛下万歳、万歳、
庭に光がやってき始める
もう、もう少し
わたしは、ひくことのなかった紅を
木の影に映し
振り返る
夫の笑い顔と、少しはにかみ 知らぬ女に
驚くむすめがおかしくなって しまう
過去の町からの いざない
それを 思うのでも、思い出すでもない
八月六日の朝
遠くに、小さく
エノラ・ゲイの光る胴体が見え始めた
もうすぐ
リトル・ボーイがやってくる
わたしは、すっかり すべてを終えて
三人で庭で待つ 朝の気持ちのよい
刻み込まれた
手遅れになった そのときを
臨界値を越えた原始の叫びに
わたしの、わたしたちの
すべてを原子に核分裂する 光の
業火を この身にするため
忘れてなど やるものかと
ぜったいに そう思いながら、
いつもと 少しも変わらぬ
空の一点の銀色が
小さな子を 産み落とすのを
歯をくいしばって
見つめていた
戻る 編 削 Point(8)