黒馬/坂井ハナ
熱帯のスコールが街に降り注いでいる
落ち窪んだぼくに 傘を差してはいても溜まりゆく雨
視界は不慮への屈伏から 夜露を湛えて滲む
爪先から徐々に激しく積み上がる感傷の血潮が
僕に夢を見せるのだ
水は下目蓋の淵から溢れんばかりまで満ち満ちた
夜と霧に拡張された街灯を散りばめた背景に
透明な湿度を肉体にした 黒馬が駆けてきたのだ
ぼくの心臓を踏み抜く為に
眠る者も不眠の者も呑み込んだ今夜を靡かせて
心臓が黒馬を引き込んだ
ぼくの虚心に活きたまま身を入れたのだ
それは段々と 孤独の色と 獰猛な号泣の匂いとを強めていき
蹄鉄の地鳴りを雨音と共鳴させていき
遂には強大な体躯でぼくを撃ち抜いた
満ち満ちていた虚栄心は音もなく零れた
街灯の煌めきも 雨垂れも 粘つく気温も掴めず
自身の空白に打ち拉がれ
密度を増すあらゆる降水に ただ惑溺するより外なかった
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