夏の総力特集 ・ 「陰毛を考える」 最終回/salco
 
戸螺鈿の小箱か何かに」
岩隈「螺鈿。箱根細工ね。ほほう」
河豚里「これが夫婦の歴史ってもんでしょう」
岩隈「なるほど。で、旦那の方は頭髪、ですかな?」
河豚里「まあ、そうしてもよいのですが、ただその場合は記憶でしかない。追憶ではなく」
岩隈「とおっしゃいますと」
河豚里「追憶とは哀惜感情を伴う対象への執着であり、自発的という意味ではアクションです。記憶は過去の残滓、それも
リアクションで浮上した散漫な断片に過ぎない。実際、夫の思い出など妻にとっては何ほどでもない。男というのは生前か
ら異性にとってさしたる存在価値がないわけですから、遺髪という発想にそぐわないのです」
岩隈「なるほ
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