猿ぐつわの男/豊島ケイトウ
猿ぐつわを噛まされた
裸の青白い男が椅子に坐っているので
私はどういうわけか
ふるさとを思い出さずには
いられない
椅子の背に両手を縛りつけられ
陶器のようにつるりとした太ももに
一滴 そしてまた一滴 と垂れ下がる
男の涎よ 無言の叫びよ
――もっと聴かせてほしい
窓辺に止まった鴉の眼差しは
猿ぐつわの男の弟の反映である
遠く近く流れるファンファーレは
決して甲子園の入場などではない
猿ぐつわの男に捧げる友情である
てめえ シラを切る気か
と軒下で男が怒鳴っている
ああ そうかい
なら勝手にやらせてもらうぜ
ええっ? どうなんだ!
聞いて
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