猿ぐつわの男/豊島ケイトウ
 
猿ぐつわを噛まされた
裸の青白い男が椅子に坐っているので
私はどういうわけか
ふるさとを思い出さずには
いられない

椅子の背に両手を縛りつけられ
陶器のようにつるりとした太ももに
一滴 そしてまた一滴 と垂れ下がる
男の涎よ 無言の叫びよ
――もっと聴かせてほしい

窓辺に止まった鴉の眼差しは
猿ぐつわの男の弟の反映である

遠く近く流れるファンファーレは
決して甲子園の入場などではない
猿ぐつわの男に捧げる友情である

てめえ シラを切る気か
と軒下で男が怒鳴っている
ああ そうかい
なら勝手にやらせてもらうぜ
ええっ? どうなんだ!

聞いて
[次のページ]
戻る   Point(15)