ニッケルオデオン/錯春
 
白と黒の斑点が浮いた
 十年前に死んだ祖父の汗のニオイがする
 温かな卵があった

 カラカラビラビラと映写機はいっそう激しくバタフライを始め
 私の周りには煙とも霧ともつかないものが漂い始める
 手の平で卵はトクトクと頷き
 綿毛のような魂を預けている

 幕にぶち当たった瞬間
 何の音もしなかった
 砂嵐の中
 翡翠色の破片がやけにゆっくりと飛散し
 一瞬だけ海の気配が漂った
 橙色をした艶やかな魂が
 粘っこい戯言を撒き散らして
 ポタポタ滴った

(お楽しみになれましたか)

 煙とも霧とも、魂だったのかもしれない
 靄が立ち込める館内を後にする
 閉じられた扉越しに歓声が沸きあがった

(これからがお楽しみです)


 上演が始まろうとしている



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