或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
 
日前に携帯電話を買ってもらったところだった。その携帯電話に最初にかかってきたのが伯母の訃報だった。伯母と父のアドレスしか入っていない携帯電話が鳴って、どきどきしながら出たら父が「お父さんだ」と名乗り、僕よりも強張った声で「ねえさんがしんだ」と言ったのだ。僕は聞こえているのか聞こえていないのか、よくわからなくて何度も聞きなおした。父は大きな声ではっきりと「伯母さんが死んだ」と言い直した。言葉の意味はわかったが、それの意味する所がつまりどれだけ重大なことなのかはわからないまま電話を切った。
伯母は僕の初恋の人だった。嘘を身につけて歩いているような人だった。彼女は旅行好きで、イギリス、ドイツ、インド、
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