常夏常世 /楽恵
 
             



淡い夢をみる夜がある
夏休み庭に植えたブーゲンビリアに
いつの間にか背丈を追い越され
生い茂る葉がどれだけ季節を重ねても
記憶は夏しか残らなかった
二人乗りの自転車が郵便ポストを通り過ぎ
南の海峡から台風がやって来る夜明け前
手を伸ばしても
結局は畑の蕃瓜樹の赤い実を採りそこねた
家に若夏が生まれてすぐ
島を制圧する灼熱が
蝉と共に哭いていた
声に眩暈がして
成長したブーゲンビリアの木蔭にひととき身を横たえ
沈んだ睡魔だけ淡かった夢を思い出そうとする
あの日確かに約束されたと胸に刻んだことも
今はもう憶えていない
午睡の夢だとつゆほど知らず
もしくは陽炎の
あれも嘘だったのかもしれない
深夜に天気予報が終わったあとも
正体を知らされるまで眠らずに待っている
けれどいつの間にかまた
昼の激しい戦闘による疲れと
夜に降る暗闇の深さに抗えず
淡い日々の夢を思い出そうと
記憶は夏に落ちていく





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