失恋に溺れて/チアーヌ
 
て安心できる。見た目だって良かった。わたしは彼の側にいられればそれでいいと思っていた。彼はすべての面でわたしの好みだった。
 それにくらべたら、俊彦はどこもいいところなんかないと言っていいほどだった。
 まず、教養がない。これは致命的だった。
 この業界は、教養がすべてと言ってもいいくらいなのだ。クラシック音楽は古い文化や芸術と密接に結びついている。語学ができるのはもちろんのこと、この仕事をしていくつもりなら、とりあえずこの業界の誰とでも会話を合わせられる程度の教養はどうしても必要だった。俊彦は、その教養があまりにも足りなかった。覚えようという気持ちはあったのかもしれないが、基礎知識部分です
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