失恋に溺れて/チアーヌ
った。俊彦が家で待っているだろうとわかっている日でも自分に仕事があればそちらを常に優先した。
わたしにはわかっていたから。いつか俊彦が出て行ってしまうことが。そして自分が俊彦に嵌りつつあることが。わたしは怖かった。
怖かったのだ。
何年もの間、忙しさにかまけて目をそらしていたはずの、わたしの「寂しい」が入っていた秘密の箱を、俊彦は開けてしまったのだ。
その箱からは、いろんなものが逃げて行った。もう取り返しがつかなかった。閉じ込めておくしかないものばかりだったのに。
パンドラの箱は、最後に「希望」が残っていたというけれど、わたしの「寂しい」が詰まった箱の中は、最後に「空虚」だ
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