東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
 
束は、何事も無かったかの様に日々を始める事だ。東京駅のホームで振り返らない事だけじゃない。0と1の情報の海でも振り向かない事が、彼女との約束なのだから。
 ただ一つ、その夢を幻覚じゃないと証明する事を約束して、僕たちは別れ、日常の中に戻るのだ。手の中から消えて行く熱をそのまま逃がしながら、うだる様な暑さのホームを、真っ直ぐ歩き続けた。彼女は、果たして座席についたのだろうか。それとも、僕の背中を見つめているのだろうか。それすらも、わからないままに歩いた。数秒前の抱擁で得た手の中の熱は既に失われ、東京の湿気を帯びた熱が指の間にまで入り込んできていた。

 たった三日間の夢だった。正確には四十八時
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