私以外の誰かに/錯春
君の人差し指と親指には一筋の花の茎
梔の香りが一斉に私の鼻をついた
茶色く錆びた真珠色
梔では月並みだからグロリオサにしたんだよ、と
差し出された指先と
指先からひとつづきになった花の茎を見ている
そんなものは受け取れないっていつ言おう
君を愛している
私ではない誰かが
私よりも適切に
私よりも君を喜ばせる方法で
私ではない誰かが君を愛しているのが
私には匂いでわかる
寒空の下を並んで歩くと
風が耳の中から脊髄へと吹き荒んだ
私達はまるで処刑されているようだね、と
そんなことは言えるわけがないけど
すれ違う老人の唇から
かつてあったふくよかさは薄れ
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