雨の唄を聴け/灯兎
 
見なれたいつもの道に 雨が降る
隣にいたはずの女の子は 排水溝へ流れていったようで
僕は一人で傘をさかさに持って 歩いている
溜まっていく水と すり減っていく僕と すくい上げることのできない女の子

泣くことも笑うことも 別れを言うことさえもできずに
過去に向かっていった女の子に
僕は何ができただろうか
伝えたい言葉はたくさんあっても そこにひとつの思いも乗せられずに
ただ立ち尽くした僕を あの子は責めるだろうか

傘が重くなってきて だるくなった右腕をさげると
足元に雨が集まってしまった
何かを映そうとしているそれは 黒く鈍く光るのがやっとで
アスファルトを恨んでいる
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