研ぎ澄まされた湖のために/錯春
 
ているものが何なのか
知らない知ろうとも思わない
それは水だろうか
掬い上げると指の隙間から必死で逃げ出し
冷涼な感触は時として私の食道を潤し
ひたすらに澄んでいた、あれは
水だったろうか
けれどもそこに魚の姿はなく
泥の舞台で尻を振る吸血虫の鼓動もない
私の砥ぎ澄まされた湖は
ガソリンに似て
私の研ぎ澄まされた湖は
揮発性の液体が持つ独特な潔癖さがあった
私の
私の研ぎ澄まされた湖は



轟々(ごうごう)と上がる火の粉は
雷神の髪の毛を彷彿とした
やがて細かな耐熱ガラスの結晶が
空気中に小さな渦を作った

上がる火の粉を瞳に座らせ
騒がしい
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