未明幻想/Giton
 
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   ―――融銅はまだ眩めかず(賢治)
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昔の空気は酸素が少なかったから
銀白色に光る鉄の破片や鉛の滴(しずく)
緑や紅(べに)の水酸化物や塩化物
鉱石やら玉(ぎょく)やら曹逹(ソーダ)やら
装飾宮殿のように、そのへんの崖を彩っていたものだ
などと、ものしりがほに語る輩(やから)は黒鉛の
飄然たるテナルディ軍曹でなければ、単なる岩石の記憶…
《場所は、空間は記憶を持ってゐるのです。》
空間の記憶が人間を刺激して夢を見させ、
最初の緑藻がいまだ地上に這い上がる前の
絢爛たる死の記憶を呼び戻し:大地はいまだ生を知らず
荘厳たる死の静寂を傲慢にも信じき
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