6月の海/高梁サトル
 

紙上に佇む
痩せ細った枯れ木
磨り減ったペン先がつけた
掻き傷の隙間に
深く根を張るインクの滲み
どこに行くとも
なにを残すとも
示さぬままに
埋まってしまった行の終わりの
広がる凪いだ海へ

記憶の中の声
蠱惑に怯えながら
淡く燃え上がる色彩の灯を
手繰り寄せ
胸に抱けば
ふるえる内接円から
微かに漏れる禁鳥の囀り
尖った八重歯が付けた
噛み傷の裂け目から
流れ出す深憂荒れる海へ

 嗚、

薄霧を纏ってけぶる
仄白い弓張りの月が
夜の果ての出口のように
まどろみの海に漂う
小さな舟を導く

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