話しかける五月/小池房枝
 
ときと同じだ
 
オーロラを描く手そして奏でる手降り注ぐものを受け止める大地

葉陰には心臓ひとつ生りかけてはいるけど鬼灯市は文月

しゅんしゅんのヤカンで麦茶の麦をたく深夜に夏の匂い突沸


うわさばなしにおひれがついてきれいなきんぎょになりました
 
街の夜のさそり座ぼやぼやのんびりと月を見ているあぁきれいだね

ビル街のアオスジアゲハの蝶道はヒトの歩道の少し上のほう
 
その薔薇は開かないよと無造作に言い切らないで抉じ開けたくなる

ぴゅうぴゅうと吹く今朝の風おとといのカマキリの子が飛ばされまいか

かたくなに閉じてた薔薇もしおれては指でかき開かれてゆくまま

剣咲きのピンクの薔薇は順々に色あせながら尖ってゆきます

部屋に一人、私一人が動くたび満ちてきた薔薇の香りも動く

南海の停滞前線ながながと低くかかって海蛇座のよう

ちょっとだけ現れて今空を打ってよ鯨の尾型夏の高気圧
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