日本橋浜町のひと/恋月 ぴの
 
もしかして美佐江さんだったのかな

週末の都営新宿線本八幡行き
朝方はお出かけの人たちでそこそこに混んでいて
視線に気付かなかった
それとも無意識に気付くことを避けてしまっていたのか
私の斜向かいに腰掛けていたスーツ姿の女性
降り際に軽く会釈したような

発車のアナウンスとともにドアは閉じ
電車は定刻どおりに日本橋浜町のホームを滑り出す

こんなときにはドア際へ駆け寄り
彼女の姿を加速する車窓から追い求めるのだろうけど

結局のところ席を立つことはなかった
単に気が向かなかったのではなく
金縛りにあっていたのだとか
忌まわしい過去と相対することに足がすくんでしま
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