ピティちゃん/salco
 
う上流社会の風習があった。それが下層階級まで波及したので、我々の文
化では口は小作りを以て優雅とし、一杯の開口は般若などの鬼面や獅子頭
、歌舞伎の隈取りにも示される通り、品の是非もない悪相と見做す。
激動期の島国の風物詩である現地妻、その元祖とも言うべき蝶々さんはそ
れで碧眼の旦那に口臭を疑われた程であるから、感情吐露やげっぷを抑制
する「慎み」という美徳観念が形骸的ではあれ現代も働く我々は、口を略
した意匠にさほどの抵抗を感じない。
まさか小作人生活を下支えした口減らしが前世記憶となっているとは思え
ないが、減らず口を嫌い多言冗語に食傷する傾向は相変わらずある。ディ
ベートより
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