新世界/伊織
 
誰もがみんなドアをひとりで叩き潰せるわけではない
こうして 震えている間に冬は過ぎてしまったが
一向に震えは収まらない


歯の根が合わない
力が入らない
かろうじて寄りかかって
動かないノブに手を掛けている


子供の声がする
大人の声がする
やたらと大きな声
やたらと楽しそうな声

少しずつ、遠ざかる



ああ

まだわたしはここにいるよ

まだわたしがここにいるよ

い か な い で





遠足のまえのような喧騒が一通り通り過ぎ、世界が終わった。
しばらくすると、ドアノブは微かな音を立てて回った。


何事もなかったかのように菜の花は咲き
モンシロチョウがその周りを舞う
空はどこまでも青く
昔 ポケットの中から見えた雲と同じ雲が流れる

 
もう 誰もいない
それでも太陽は充分温かかった
息をして
眠ることにした

ありがとう。
ここにいてもいいんだよね
おやすみ。
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