薄暮/within
、マウスに触れるとモニタの電源がともり、明るい声でメイドが迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。今日の夕食は何にいたしましょう? 」
彼はあまり空腹ではなかった。何かしらが胃に潜んでいて、停留しているような、そんな重さを感じていた。
「あまり重くない、消化のよい、和食がいい」
とだけ伝えると、モニタにメニューが三次元の像として現れた。ほうれんそうのおひたし、湯豆腐、空豆の甘辛煮、白菜とえのきの味噌汁、高菜の漬物。
「いかがでしょうか? 」
若い女の声のメイドが言う。老人は眉を動かすこともなく
「それでいい」
と答え、席を立ち、風呂場へ向かった。部屋の中は田舎の一隅に住んでいるよう
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