次に来る者たちのために/西天 龍
芽吹きは全ての緑
やがて水蒸気をまとい雲を作る
わずかな五月晴れも次に来る者たちのため
散る花を惜しむ心は
手をかざす真夏の太陽を待つことの言い訳
あるいは
また訪れる静寂の時への
長い長いアンコール
山桜が美しいのは
人が植えたものではないから
だから芽吹きに当たり前のように紅を添える
誰に見られるでもなく
今日も、旅人が門前に立ち扉を叩き
次に来る者たちへ、と
謎めいた言づてを置いていく
強いて留め、名を問うても
あなたが一番よく知っていると
微笑むのみ
四季の起点は春それとも秋
そんな無意味な問いかけを
軽くいなして時が流れ
この皐月の芽吹きは
全ての時につながる
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