潮干狩り/salco
 
潮騒が何故か
寂しく、途方に暮れる心細さだったのは、海水で台無しの下着と気分に
加えて多分に飽きもあったろう。
大人という人種は、利得観念に基づき愚にもつかぬ単純作業に嬉々とし
て身をやつすものだ。蟻んこ観察や毛虫採集など高踏な学術的興味に没
頭する子供には解せる範疇にない。しかも孤高の学究に勤しむ理想主義
者は、根性卑賤な落穂拾いの輩に対して甚だ不利な立場にあり、「勝手
にしなさい」と言われたところで、「ああするともさ」と啖呵を切るわ
けには行かないのである。自我の武装整うコールタール期までは、佇立
姿勢でむせび泣きつつパラサイトの身に甘んじ続けなければならない。

あの日
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