閃篇Ω ちょっとSM/佐々宝砂
 
私は彼を愛するが彼はこの疲労を癒やさない。

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ごめんなさい。まだよ。女は微笑んだ。壁に縛められた男の腕には点滴。あなたはまだ抵抗できるわ。だからまだ。つい、と延びた女の指先に剃刀。ほら切られたらまだ動くでしょうあなた。あなたが全く動けなくなったら愛してあげる。干涸らびても黴びても腐っても。

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成人儀礼の時期はとうに過ぎた君の腹に、ナイフで薄く卍を描く。これもひとつの儀礼なのよ、とささやいて抱きしめれば、私の腹にくっきりと赤いハーケンクロイツ。

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これを手に入れるのに、私、ものすごく苦労したのよ。ワセリンに練り込んだ蛍光色のそれを、微笑みながら塗りたくる。蛍光を発する彼の局所にくちづける彼女の頭髪は既に薄い。どうせいくのなら一緒に。こんなやりかたが私の好み。放射性物質に濡れて二人は逝く。

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