ハンチング/あおば
 
                   100501



左前に着たカーディガン
朱色の毛糸が縺れながら
ボタンを嵌めるのが面倒だと自転車に飛び乗ってかぶりつけないハンチングを見せつけるたびに元士官候補生が権威を見せつけるかのように姿勢を正すのだと背中に目を移植して緊張感の無自覚を糾しているのは10年前の記憶
緊張感のほつれたままに
毛糸の糸を引っ張ると
ゆるゆると伸びてゆく
ほつれの程度に差があるかと
小さな穴に通してみるが
何時でも試す時は
するりと通り抜ける健気な根性
ブラックホールの誕生だと
小躍りしながら穴の向こうを覗いてみたが
無効という文字が薄く微かに
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