葡萄のホテル/しべ
 
真っ暗に点す
山霧の薄い鞠

電信柱を包み
無味な綿実を育む

粛々と夜を描けるなら

草露に浮かぶ涙も
からかえるのに


緑の看板が ぽつぽつと
糸を引く


小さな 咳


雨中
ナツメヤシを焚く

通り過ぎたのはタクシーと
みえやしない
もの

赤い右手が肺に触れ
動物的な息づかいが押し込む

10年前に
ベージュのサニーで流れた歌は
今もまだ生々しい

前照灯がセンターラインをかきわけると
森は燃え広がった


ハンドルを切る


手元の古いフィルムの国道 16号

中古車センターとホテルの町


たしか
葡萄の色の
痩せた建物だった


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