春燃える/たちばなまこと
 
春は抱かれ
燃える
緑が芽吹くにおいに居て
眩む
むせかえる
しびれ
新しい手足を産むときの
吐息
甘く

金色のひかりを浴びて
たくさんの顔が歩く
小さな子に
人種についてを
教えられない母親

黒髪を
耳にかけられ
春が抱かれ
追憶のきみは
とても甘い

春の中で春は
苦しみの海の底
泳ぎ疲れて鳴いている
さかなのようなひとね

こころ焼ける
ただれた内側を撫でて
添い寝して
水を飲んで
涙や汗に流して
空へゆくように
春に還る

木陰からはなの名前を問われ
八重桜の種類ですねと答える
追憶の女の子は
分けることの多くの意味を
受け入れられず
たったひとり
影踏みをしている
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