ボギー大佐マーチ/岡村明子
誰もいなくなった教室で
同じ図形をノートの端にひたすらに書くということを止められなくて
一本の線で四角をどんどん連鎖させて黒くなるまで
はじまりがどこだか見えなくなっても
鉛筆の先に終わりはまだぶらさがっている
いつノートから鉛筆を放していいかわからず
四角を書き足し書き足し四角四角四角視覚がおかしくなるまで
先生が傍に立っていた
その日は
朝から文字もなんにも読めなくなっていたので
そうしているしかなかっただけなのだが
ごめんなさい
ごめんなさい
そう言いながら書きつづけた
ピストルの音に弾かれて
窓の外を眺めた
秋晴れの空と
万国旗
赤白青黄黒丸縞十字星
光は教室にも届いていたのに
毎日練習してきた行進曲
ソミ・ミファソ・ミ・ミ・ドー
指は回らないけど歌える
サル・ゴリラ・チン・パン・ジー
サル・ゴリラ・チン・パン・ジー
たてぶえのスタッカートが小気味よく
ズッタカタッター・ズッタカター
輪になって回るクラスメイトたち
紅白帽の下
顔が見えなくて
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