イリュージョン/済谷川蛍
夏の魔法が解けかかった八月最後の夕暮れ。無邪気な子供たちの声が、セミの合唱とともに田園に響いていた。
水着姿の少年と少女は、素肌を黄金色に照らし、田んぼと森に囲まれた疎水で水遊びをしている。まだ太陽が空の上に燦々と輝いていた頃からずっと、誰にも憚れることなく、爽やかな歓声と冷たい水飛沫を上げ、ときにはそのままの姿で野道を渡り歩き、森の中で鬼ごっこなどをした。
一人の少年がザリガニを持ち上げて叫んだ。
「アメリカザリガニみっけたー」
少しゆとりのある身体つきをした少年は、名をヨウスケと言った。
「あっ、それレアなニホンザリガニだよ。色が薄いでしょ」と、メガネをかけた少
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)