鎌倉の月/ふくだわらまんじゅうろう
 
ことだけれども、俺は
一匹の猫を買った。見るからに
どうしようもない猫を
一匹
同情や何かじゃない
たまらなかったんだ
このどうしようもないペット屋で
こいつだけが売れ残ってゆくのが
あの猫もこの犬も売れるだろう
このわけのわからないネズミみたいなのさえ
売れてゆくだろう。だけど
こいつだけ売れ残るんだ。お世辞にも
同情だってこいつを買ってく奴はいないんだ、世の中
こんな猫
売れ残ったってかまわないさ
保健所に連れてかれて
殺されちまったって知ったこっちゃない
それくらい
人間どもはまだまだ馬鹿なんだからしょうがない
だけど、おまえみたいなどうしようもない猫が
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