清水坂下のひと/恋月 ぴの
 
こっちでよいのかな?

中央通りは人波が険しいからと教わった脇道
パソコン自作用のパーツ屋さんとか軒を並べているけど
いまどきのメイドさんとかアニメ系のお店とかが元気ありそう

あの日のことは一生忘れられないと
仕入先の電気屋さんは語ってくれてはいても
他人行儀な平穏につつまれた街
そして時の流れは情け容赦なく事件を記憶の片隅へと押し流そうとする

今日はちょっと遠出になるからと出してくれた
事務員さんのお使い用として長年活躍している自転車
普段は倉庫の片隅に置かれているためなのか痛みも目立たず
雨風をしのげる
それは人にも物にも優しいってことらしい

春の日差し
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