手枕/楽恵
女の面影や身体の柔らかさのことを
夜道を歩きながらぼんやりと思い出そうとしていた
半月に照らされた王都の白い石畳が
南島の短い冬に冷えていた
(あれは、まぼろしではなかったのか)
自分の着ている着物の袖に
野生に咲く小さな蘭のような匂いが
微かに残っていた
男が歩くたび
その匂いが風にのって鼻先をくすぐった
腕枕をしてやった際の、女の頭の儚い重さが
袖の移り香を通してよみがえってきた
そうして
先ほどの夢のように短い逢瀬が
確かにまぼろしではなかったのだ、と
夜風が吹くたび思い知らされ
胸を痛めるのだった
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