署名/古月
驟雨
壁の絵を外すと窓がある
まだ名前のない誰かの清潔な床に
点々と零れた眠りを辿る
廊下に並んだ額縁の端
署名が目に入る
布をかける
遡行する
中庭の石畳はまばらに濡れ
痩せた子供が根元から折れている
それは昨日の朝に芽吹いたばかりの
けして触れる筈のなかった痛み
ざらついた舌を蟻のように舐める
傾いた光ばかりが壁に凭れ
真新しい日
どこまでも続いていく葬列の先に
赤子は高く掲げられながら
老人を遠くへと連れ去って行く
乾いた赤い土の上に横たわる
たくさんの名も知らぬ人々の群れ
踏みしめられて砕ける骨の音を
墓碑に刻みながら歩く
絵筆を置く
戻る 編 削 Point(6)